2012/07/31

「ザ・ホワイトハウス」の登場人物をユングの性格論で分析してみる

カール・ユングの性格論を読むと自分自身だけでなく色々な人を分析してみたくなるのだが、ネット上で検索すると映画やドラマの登場人物をユングの性格論で分析した記事が散見される。この「ザ・ホワイトハウス(The West Wing)」をネタにしたブログ記事もどこかにあったと思うのだが、失念してしまった。なので自分でやってみる。

話の前提としてユングの性格分析について簡単に説明しておくと、まず性格には大きく「外向的/内向的」という2つのタイプがある。 外向的性格は外側の現実に、内向的性格は自分の内面に価値基準を置く。その中で物事の良し悪しを筋道を立てて判断する合理的機能として「思考タイプ/感情タイプ」がある。そしてもう一つ別の軸、筋道とは関係なく好悪や美醜を判断する非合理的機能として「感覚タイプ/直感タイプ」がある。合理的機能と非合理的機能はどちらかが主機能として発達し、もう一方が副機能となる。各「/」で区切られた要素は同じ機能の表裏の関係にあり、片方が発達するともう片方は未発達なまま置かれる。

ユング心理学については僕は単に秋山さと子氏の著作をいくつか読んだ程度なので、以下はまったくの素人の戯れ言として読んで頂きたい。


ジェド・バートレット大統領(外向的感情/直感タイプ)
主機能は合理的機能である感情タイプ。感情タイプとは常に喜ぶべきことに喜び、怒るべきことに怒り、悲しむべきことに悲しむことができるタイプである。・・・何をあたりまえな、と思った人はおそらく感情タイプであろう。この逆の思考タイプは思考を軸に物事を判断するので感情は時にあてにならない動きをする。

バートレットは非常に理論に強いが、頭が良い=思考タイプではないことに注意。思考力があっても感情タイプの最終的な判断基準はあくまで人間的な感情にある。副機能の非合理的機能は直感タイプ。数字に強く、無類のうんちく好きでディテールにもこだわるので感覚タイプにも見えるが、そうした細かい情報は脇を固めたり煙に巻くために飛び回っており、肝心の判断は直感であらかじめ大筋を決めてあるふしがある。

この大統領はかなり理想化された人格であるため、裏の機能、未発達な内向的思考に凝り固まるといった描写は少ない。うんちく攻撃で側近達をうんざりさせることによって発散させているのかもしれないが。


レオ・マクギャリー首席補佐官(外向的思考/感覚タイプ)
かなり強固な外向的思考タイプ。外向タイプというのは自分の内面より外側の現実に重きを置くタイプである。・・・そりゃ誰でも当然、と思ったあなたはおそらく(以下略)。そして次に思考タイプであるということ。この人は笑顔がとても素敵なのだが、TPOに応じて必要な時以外はきちんとしまいこまれている。平素は判断基準や態度がまったく揺らぐことがない。また感情に引きずられないので局面の変化に即座に対応できる柔軟さもある。

しかし強固な思考タイプであるだけに、裏の機能である内向的感情が噴出する時は危機的な状況に陥る。副機能はあまり表に出ないが、発想に飛躍が全くないことから感覚タイプと思われる。自分と逆のタイプを理解するということははなかなか難しいものだが、大統領とはよく理解し信頼し合っている。後述のジョシュとサムの場合もそうだが、こうした人間関係を描ける脚本のアーロン・ソーキンの人間洞察力は並大抵ではない。


トビー・ジーグラー広報部長(内向的思考/直感タイプ)
このドラマでは数少ない内向タイプ。しょっちゅう怒鳴っている印象があるが、これは裏の未発達な外向的感情を小出しにしているためだろう。この男の笑顔は引きつっているし、妙なところで笑い出したりもする。感情が激しい=感情タイプではないことにも注意。

思考タイプが裏の感情を「大出し」にすると中心の思考まで崩れ去る。トビーの感情は激しいが中核となる内向的思考がしっかりしているのでそこまでには至らない。一見面倒な性格に見えるトビーが重用されている理由でもある。この男がいないとこの政権は世論調査で政策を決める「マーケティング政権」に成り下がる危険があるかもしれない。

内向的性格は自分の内面に空虚感を持つことは少ないのだが、外とのつながりが弱いために時には自信を失ったり逆に尊大になったりする。劇中では「大統領に疎んじられているのではないか」とうじうじ悩むシーンがある。いつも過程や段取りをすっ飛ばして結論を急ぎたがるが、これは副機能の直感もかなり強く表に出ているため。


ジョシュ・ライマン次席補佐官(外向的直感/思考タイプ)
「直感」というあやふやなものを中心に据える直感タイプとは、一言で言うと勘が良いタイプである。いきなり本質を突くのが得意なジョシュは交渉事には無類に強く、この政権の原動力でもある。

ただディテールをすっ飛ばすのでポカも多く、慢心から足下をすくわれることもある。外向的直感タイプは瞬時に物事を判断するのが得意なためにどうしても自信過剰に陥りやすい。「他人が馬鹿に見える」というやつである。その他服装にこだわっているようで無頓着だったりするところも直感タイプらしさが現れている。

副機能は一見分かりにくいが合理的機能の思考タイプ。感情は豊かだがふわふわと不安定でやや子供っぽい。そして物事を判断をする時には感情がさっと消える。これは思考タイプの特徴である。


サム・シーボーン広報部次長(外向的感覚/感情タイプ)
主機能は非合理的機能である感覚タイプ。一言で言うとセンスの良い人である。サムの身なりは常にきちんとしている。そして常に相手の目を見て話す。トビーやジョシュが時々あらぬ方向を見ながら話をしてしまうのと対照的だ。平常激務なのに余暇にヨットを楽しもうとするのも五感の情報が好きな感覚タイプらしい。これまた野外で食事することすら嫌がるトビーとは対照的だ。

ディテールに強いサムは相手の言葉尻をとらえるのが上手い。そして副機能が感情タイプであるので相手に好印象を与えて円満に話を進めるのも得意だ。しかしこうした丁寧さが裏目に出て議論では押し切られたり丸め込まれたりすることも多い。その他にも提言が却下されたりと「負け」の多いサムではあるが、不思議と頼りない印象はない。それはこの男が主機能を生かして細部をおろそかにせず、ミスやムラがきわめて少ないせいでもある。

劇中では裏の機能の未発達な直感や思考が出てくることは少ないが、コールガールとの関係を取り沙汰された時には「子供っぽい論理」を振り回してしまったことがある。


C.J.クレッグ報道官(外向的感情/感覚タイプ)
この人は非常に思考力に優れ、頭の良さを強調されるキャラクターだが、物事を考えるときに感情が外れることがない感情タイプ。感情タイプが「感情なし」にものを言ったり考えたりするのは心神喪失状態の時くらいである。そして女性の思考タイプは非常にまれでもある。

副機能は発想が飛躍せず、ディテールをきちんと積み重ねることから感覚タイプに見える。しかし劇中、仕事以外では感覚タイプらしからぬ飛躍や不器用さも見せる。もっとも副機能は元からはっきりと分化しないこともある。

考えるに、このC.J.クレッグというキャラクターは元々スキのない感覚タイプがイメージされていたのが、演ずるアリソン・ジャニーに直感タイプ的要素が濃かったために役付けが変化したのかもしれない。あくまで憶測だが。(このページ全部そう)

2 件のコメント:

  1. そういえば「ザ・ホワイトハウス」ってあったなあ。

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    1. ちょっと前のドラマです。今DVDで順番に観ていってるので僕の中で盛り上がってます(笑)。第7シーズンまでありますが第5シーズンで脚本家が変わってしまうのでそれ以降は観る必要なし、というのが大方の意見。

      まあ大した作品ですね。クリントン政権が下地になっているようです。理想化されたクリントン政権、「ビル・クリントンが(背が低くて太ったおじさんでもいいから)、もうちょっと筋のしっかり通った人だったらなあ。」というところ。日本での放送当時はブッシュ時代だったので夢物語のように感じました。

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