2014/11/09

印象派二軍列伝 4:ギュスターヴ・カイユボット

実はこのシリーズを書き始めようと思ったのはこのカイユボットという画家に興味がわいたせいである。お金持ちのカイユボットは画家兼パトロンとして印象派仲間の絵を買って彼らの生活も支援していた。そんな重要メンバーの彼の名がいまいちマイナーなのは、遺族が絵を売りに出したのが20世紀も半ばになってからだったという面がある。金持ちなので自分では絵を売る必要がなかったのだ。


で、どんな絵を描いていたかというとこれが実に上手くてしかも面白い。

『床削りの人々』(1875年)

カイユボットの最も有名な作品。 引き締まった職人達の肉体表現の素晴らしさもさることながら、主題の着目点が面白い。この人は遠近法に凝る人で、外から差し込む光の効果とカンナの筋の幾何学的な交差が美しい。いろんな意味でユニークな作品である。

 『ピアノを弾く若い男』(1876年)

これもまた外から差し込む光が特徴的だが、レースで拡散されて部屋中に柔らかい明かりになって広がっている。壁紙とカーペットの模様、ピアノや椅子の光沢、ビロードや曲集の質感の違いなど、「自然すぎて不自然」と思うくらいだ。尋常ではない腕前である。

『パリの通り、雨』(1877年)

カイユボットの作品はどれもとても「写真っぽい」。特に若い頃の絵はそうである。その中でも極めつけの絵がこれ。石畳の水の反射や、逆に反射光でコントラストがなくなる人物が実に写真っぽい。構図は手前の人物の足が見切れ、右の男は半身だけが「写っている」。そして全体の遠近法は、これが「広角」なのだ。カイユボットは制作に写真を用いていたのかもしれない。特にこの絵などは手前より後ろの人物にピントが合っている。

この時代に写真という技術が生まれて、画家達はそれに抵抗したり絵画の存在理由について必死に考えたりしていた。そんな中で堂々と「彩色写真」な絵を描いたカイユボットの姿勢はちょっと面白い。生まれるのが少し遅ければ確実に写真家になっていそうだ。

彼は絵の才能があって見る眼があり、頭が良く、生まれた環境にも恵まれた。そして無理に天才達と張り合って自分の絵にこだわるよりもパトロンとして貢献する方を選んだのである。やはり画家としてかなりユニークな存在だ。


印象派二軍列伝 1:フレデリック・バジール
印象派二軍列伝 2:カミーユ・ピサロ
印象派二軍列伝 3:アルフレッド・シスレー
印象派二軍列伝 4:ギュスターヴ・カイユボット
印象派二軍列伝 5:メアリー・カサット

0 件のコメント:

コメントを投稿