【前回までのあらすじ】
英国式ブラスバンドで演奏することにした男はebayでイギリスの出品者からヤマハのコンペイセイティング式Bbバスを買う。しかしそれは控えめに言っても相当な調整が必要な代物だった。やがて男は青白きバーナーの光に魅入られ、後戻りできない魔の領域へ足を踏み入れていく・・・
前回「いったんはこれで完成としよう。」などと締めているが、すぐに問題は露呈した。音ヌケを重視して支柱を外した1番管の強度が明らかに不足してしまっているのである。
縦バスの1番管と3番管は「取手」としての重要な役割がある。それはそもそも楽器の構造としてどうなんだ、という疑問はあるが、とにかく1番管と3番管に楽器の全重量、テューバの場合約10kgが一箇所にかかる使い方をするのはどうしても避けられない。だからこそ元々余計なくらい支柱が立てられていたのだろう。(※前々回参照)
というわけで1番管の支柱、枝管の間を支える支柱を復活させる。と言っても外したデフォルトの支柱ではなくオリジナルの直径1cm真鍮棒を加工した支柱である。オリジナル支柱なら失敗しても替わりは作れるからだ。
こうなると3番管の支柱も交換したい。というのもこの楽器にはヤマハ特有のスタイルでの「ネジ止め支柱」がたくさんあって、これが以前から気になっていた。
おそらく管を凹ますことの多いであろう学校楽器のメンテナンスを容易にするためなのだろうが、音響的にも強度という点でも望ましいとは思えない。(本来は3本立っているがそのうち真ん中の1本は上記前々回で取り外してある) 3番管は「取手」として常に楽器を保持するために強度が必要な管である。特にコンペイセイティング・システムの楽器は4番管を押さえるために常にしっかり握る必要がある。だから支柱の置き換えは慎重にする必要があるが・・・。
これ元からけっこうゆがんでるし台座の部分が曲がって少し浮いているぞ。
なので作り直してやったぜ!
心配していたオリジナル支柱の強度だが、問題はなさそうである。ていうかむしろ頑丈すぎてオーバースペックといって良いくらいだ。もしこの楽器を激しくぶつけたら支柱が管を突き破ってしまうかもしれない。おそらくはそういう危険性も加味してデフォルトの支柱はあえてちょっと華奢に作ってあるのだろう。
で、このつよいつよいオリジナル支柱だが、見た目はきれいに見えるが実は管のアールにぴったり作れたわけではなく、生じた隙間をけっこうハンダで埋めてある。にもかかわらずこの「直径1cmの真鍮棒」がサウンドと吹奏感にもたらす効果が実は非常に大きい。
今回の改造に入る前の楽器は、吹奏感が非常に軽くブイブイ鳴る状態。吹いていてたいへん気持ち良いのだが、鳴りが良すぎて音が後から追いかけてくるように感じられ、それによって細かい音譜が潰れてしまうほどだった。英国式ブラスバンドでは細かい音譜を吹きまくるので潰れるのは困る。それ以前に英国式ブラスバンドのバスパートは4人で1ユニットを形成するので、ひとりだけブンブクブンに鳴りまくるというのも具合が悪い。
それが今回の1番管と3番管の支柱置き換えで響きは締まり、細かい音譜でもはっきりとアタックが出るようになった。こうなるともう少し歩を進めたい。奥の主管に付いているこのみっともない工業製品然としたネジ止め支柱も排除したい。
その代わりに立てる支柱はこのボトムの内側の主管にした。ここは主管同士をつなぐので当然ながら「音を締める」効果は強く出るだろう。
そして残りのネジ止め支柱、1番管と主管をつなぐ箇所も置き換えた。
この他のいくつかある小さなネジ止め支柱はそのまま取り外すのみとした。これらは構造上必要ではあるが、他の支柱をバシバシに固めたのであえてこの代わりを用意する必要はなさそうだ。
こうやって自分で改造していくうちに改めて思ったのだが、この楽器に元から施されていた補修の数々は、本当にひどい。
当初は向こうの楽器屋さんは荒っぽいな、下手なのだな、ていうか日本の素晴らしいリペアマンと比べるのが間違いなのかな、と思っていた。
しかし実はそうではなくて、前のオーナーは今の僕のように素人リペアをしていたのではないかと思うようになった。 もちろんこれはあくまで想像だが、そもそもイギリスは古い自動車を買って自分でレストアする文化がある国である。金管楽器のレストアに手を出す輩がいてもなんら不思議はない。
そんな輩の仲間入りを果たした僕であるが、最後にもうひと押ししたくなった。マウスパイプである。(※過去画像から)
このマウスパイプは神戸のグランド楽器さんに持ち込んで改造してもらったものである。自分が要望しての施工であるが、実はマウスパイプを「浮かす」のは必要なかったのではなかったのではないかとずっと思っていた。
そこで補強も兼ねてオリジナル自作支柱を取り付けてみることにする。これまでサウンドと吹奏感に強烈な効果をもたらしてきた「直径1cmの真鍮棒」による、ベルとマウスパイプという最重要部位の橋渡しがどういう変化を与えるか。
これによる結果はというと・・・予想ではマウスパイプとベルをゴツい真鍮棒でつないでしまうわけだから相当響きが締められるのではないかと思っていた。
ところが実際にやってみると、むしろ音に突き抜けるような力強さが加わり、ブースト感が伴うサウンドになった。上の方で「ひとりだけブンブクブンに鳴りまくるというのも具合が悪い」と書いたが、さらにパワーアップしてしまった。そろそろブラスバンドの活動が再開されるにあたってこれは少々心配である。
ただ全体的にはこれまでにはなかったサウンドの「重み」が加わった。それによりこの楽器の入手当時から感じていた
「学校楽器に毛(コンペ管)の生えたようなモノ」
「単なる真鍮管の束」(←ひどい)
という印象からは完全に生まれ変わった。
少なくとも僕の中ではこの初期型YBB621は立派な「楽器」に変貌を遂げた。
改めて思うが楽器というのは不思議なものである。管楽器であれ何であれ、楽器奏者であれば工業製品としての品質が必ずしも楽器としての良し悪しに直結しないのは日頃からよく実感するところだろう。 しかしそれを自分で変えられる、性格も左右できると知ったのは大きな驚きであった。
・・・とこのように書いていると、自分でもやってみよう!と思う人が出てくるのではないかという危惧がある。なのでここで再三に渡って言っておきたいのだが、もしこれを読んで真似して取り返しのつかないことになっても
あたしゃ一切責任取りませんからね!
これだけは高らかに宣言してこの項を終わりとしたい。
→そしてファイナルへ
0 件のコメント:
コメントを投稿